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第二章 禁断・はぎ香 <1>

かわいそうな事件だなと、イケナイことだけど、ナントナク、そう思っていた。逮捕された男の人は二十歳。十四歳の女の子は保護されて、女の子の胎内には、その男の人との赤ちゃんがいたのだけど、ショックで、結局、流産してしまった・・・先月、事件として報道されたのは、そこまでだった。

二人が知り合ったのは四年前。その男の人は父親と二人暮らしだったけれど、十六歳になってすぐの頃、父親を仕事中の事故で亡くしたあとは、身寄りもなく独りで働き、暮らしを立てていた。彼は、休みの日、前に仕事で行ったことのある町に、ふと、もう一度行ってみる気になって、四百ccで出かけた。

何故、その町へ行きたくなったのか、わからない、平凡な田舎町。散歩の小犬たちが少し嬉しそうな小さな公園。どこにでもある町の、どこにでもある公園の陽だまりで、一人の女の子を見た。女の子のそばにいる、キカン気そうな目をした白いプードルが、不思議と彼にも懐いて。

「かわいいね。なんて名前?」

「まりちゃん!」

あとで、その女の子は、少しの間、そのプードルの相手をしていただけで、近所の家の飼い犬だと分かったけれど、何でもないその会話が、二人の生活の始まりになったの。

夕暮れが近づいて、帰ろうとする男の人の傍を、女の子は離れたがらなかったのだと言う、男の人の話は、誰にも信じられていない。そして、その人は、その女の子をバイクの後ろに乗せて、とうとう、自分のマンションまで連れ帰ってしまった。

イケナイことだとは感じていたけれど、それを誘拐?だとは思ってもみなかったそうだ。そして、幸か不幸か、大都会の、住人の入れ替わりの激しいマンションに住む二人は、他人に知られることもなく、兄妹のように暮らし、(実際、彼女の姿を見かけた人もあったのだけど、兄妹だとしか思わなかったそうだ。)そして、恋びとのように暮らし、そして、夫婦のように暮らして、女の子の身体に変化が訪れて、病院で診察を受けたことから、人に知られて、事件として扱われて。

それが、先月、報道された、少し変わった拉致監禁?事件のあらましだったけれど。一昨日、その男の人が、マンションのその部屋で遺体となって発見された。外傷は何もなく、自然死のような、衰弱による死だった。そして、昨日、女の子の方も後を追うように死んでしまった。やはり、自殺に近い、衰弱による死だった。

一層、哀しいのは、二人が本当の兄妹だったという事実。なんて酷い巡りあわせなのと思って、わたしは凍りつく。これで良かったと言えるはずもない、二人の不幸せ。

男の人が五歳の時、両親は離婚して、その時、母親のお腹にいた女の子は、父を知らず、兄がいたことも知らされず、母親と二人暮らしだった。話したがらない母を想って、父親のことは何も聞かず、寂しい気持ちで暮らしている女の子だったから、ふと、他人ではないような気がしたその人に懐いて、もう家には帰りたがらなかったそうだ。

ところが、事件になって、母親と再会して、母親は、彼に会い、名前を知って、それから、こんな悲しい結末を迎えてしまった。誰が悪いとも言えない哀しさ。何がイケナイのかしらと、天に問い掛けてみたくなる哀しさ。

二人の子どもに再会したのも束の間、相次いで亡くしてしまった母親に、世間?の同情は寄せられているけれど、わたしは、やはり、この女の子を、この兄妹を、かわいそうだと思わずにはいられない。

わたしとお兄さまとは、今まで一緒に離れず暮らせたのだから、わたしは、幸せだと思わなくてはイケナイのかもしれない。でも、どうかすると、わたしは、この女の子を、その生活を、その妊娠を、そして、その死さえも、羨ましいと感じていることに気がつく。わたしも、公園でお兄さまに出会ったら、きっと、もう、家には帰らないで、後をついて行くと思うから。

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